儀式。
何てことない普通の主婦だった私。
あの絵に引き込まれて、居ても立っても居られない気持ちになったのがきっかけ。
どんな人なのだろう?
どんなものの見方をしている方なのだろう?
知的好奇心なのか邪な気持ちが優っていたのかは分からない。
それから私は何度かその人とやり取りをしたのだ。
このホテルのラウンジで、もうすぐ会う予定なのだ。
クラシカルなホテルの雰囲気に合わせ、私は手持ちの衣装で1番高いワンピースとパンプスを履いて、約束の時間までの時を過ごす。
時々、平静を装えていないのではないかとドキドキしている。
何故ならば、彼からのリクエストでとあるメーカーの光沢パンストを履いてきてと言われ、今私はその通りにしているからだ。
彼はさらに私に、ラウンジではノーパンでと言ってきた。
「そんなのできません!」と言えば良かったのかもしれない。
だって考えてみてもおかしい話だ。
初めて会う女性にノーパンで会いましょうだなんて馬鹿げた話だ。
だけれども、私はその雰囲気に誘い込まれるように快諾してしまった。
早く来て欲しい…、いやこのまま急用とかでキャンセルになって欲しい…頭の中で錯綜する。
こんな頭の整理が出来ていないまま、初対面の方に会うだなんて、こちらの方こそ失礼ではないかと思い直し、ハーブティを口に含む。
「こんにちは。ナオさんですか?はじめまして。やり取りをさせて頂いてたハルキです。お待たせして申し訳ございませんでした。」
「は、初めまして。と、とんでもないです。こちらこそお忙しい中、お時間作って頂いてありがとうございます。」
写真より雰囲気が違って、随分若々しく見える…。
やっぱり私なんか…間違ったかもしれない。
彼は私の耳元に身体を向け
「やっぱりお綺麗ですね。ゼンタイが良く似合う身体つきです…とても。」
耳元でそう囁かれ、私はパニックになる。
「す、…すみません。こういうの慣れてなくって…。」
「大丈夫ですよ。そんな表情も素敵ですから。」
ハルキという男性は、ニコニコしながら向かいの席に座った。
僕はこういうモノです。
名刺を出してくる。
アカウントの名前は本名のようだ。
メーカーの研究者か…。
なんだか益々気後れしそうだ。
「一応、真面目には働いているんですよ。
見えないでしょ、研究者の何割かはホントに頭がクレイジーなんですよ。ボクもそのひとり。趣味でね、たまに写真あげているんです。」
「ハルキさん、すごい方なんですね。私なんか結婚してから家の中でいるもんですから…ちょっと申し訳ないです。」
「ナオさん、ボクはそんなの1ミリも気にしていませんよ。そんなことよりも、こうしてようやく出逢えたことが嬉しくて嬉しくてたまらないんです。」
彼はそう言いながら私の手を取る。
左の薬指にリングが光る。
あ、なんだ、彼も既婚者なのか。
「ハルキさん、私貴方のことを勘違いしていたみたいです。てっきり独身の方かとばかり。」
「あー、ボク言ってませんでしたもんね。ごめんなさい。奥さんと子どもが2人います。モチロン、こんな事は知りませんよ。因みに今は単身赴任です(笑)!…気になりますか…?」
そう言い、私の指を一本ずつ丁寧に撫でていく。
今まで指をこんなにも丁寧に触れられたこともない…なんて感覚なのだろう…。
「いえいえ、ごめんなさい。少し気になってしまったんです。あの、やっぱり普通の出会いじゃないというか、私のちょっとした好奇心というか…。」
「好奇心があったから、ボクに興味があったから来たんでしょう?ボクは絶対ナオさんは来てくれると思っていたんですよ。」
そう言いながら私の薬指からリングを外す。
彼もスルスルとリングを外し、サテンの小さな袋の中に入れた。
「ほら。もうこれで今ボク達は何のしがらみもなくなった。代わりにこれをどうぞ。」
ピンクゴールドのピンキーリングをはめられ、彼もまた同じデザインの違う色のリングを見せてくれた。
「ボクにもはめてくださいよ(笑)」
私は少し震えながら、指にリングを通した。
…とても恥ずかしい…。
ハルキは私の手を取り、
「これでボク達は特別な2人になった証。ボクはナオさんをずっと前から気になっていたんですよ。ようやくだ。」
「そ、そんなたいそうな…あ、なんかリングまで用意して頂いて。何というか…。」
慌てふためく私から彼は視線を逸らさない。
「ナオさん、ボクが貴女の知らない極上の世界にご招待しますね。」
私は瞬時に心を奪われた。
そして、秘部からビュルッと液が溢れ出した。