ひととき。
弱音を吐くと、それを美味だと嗅ぎ分けて詮索する人がいる。皆噂とか、妬みとか僻みとかが好きだし、自分の保身に回る。
本当なら短時間でガッツリ話して、また次回という予定だったと思う。
それに私が希望した訳ではなく、別の上位職から「ランチを一緒に…」と、リクエストがあったから。
案の定、紳士なあの人は小型のラップトップを持ち、小走りでカフェテリアへやって来る。
彼は紳士なのだ。
私が下の立場であっても、ソファの席が無ければ、私を座らせ、膝をついて目線を合わせてくれるような人だ。
その上位職の方の相談を2人で聞き、区切りがついたところでその上位職の方は席を外した。
仕事の話のための時間だ。
でも長らく私は悩んでいたし、メールをするにも、忙しいだろうからと連絡を取らずにいた。
仕事の話よりも…と、私は近況の話を繰り出す。そこからいつもの禅問答のようなやり取りが続く。
対面ではなく、横並びになり、そのやり取りは続く。
漠然とした悩みを、濃霧に包まれたような視界から、ゆっくり手を引かれる感覚だ。
周囲から王子様と言われるほどの外見だし、優しいし…この人に話を聞いてもらうために、世の人はお金を支払う。
なんだかそんな風に思うと、私はとても贅沢な時間を過ごしているような気持ちになった。
私に今回のプロジェクトチームを紹介したのは、お互いにメリットがあると思ったからだよと言われ、えっ…、となった。
私はその人が私に優しく接してくれるのは、その人が優しいからだという頭しかなかった。
寧ろ最近そちらには全く貢献できず、申し訳無さしか無かった。
…そう、申し訳なさのみであった。
そして、その人の近況なり、未来はどうなりたいかの話を聞いていた。
あっという間にその人の次の予定の15時になっていた。
「そろそろお時間では…?私はここで…。」
と言うと、時計を見ながら
「15時と思っていたけど、僕の勘違いで次の予定は16時からだよ。」
と言われ、また話を続ける。
結局、仕事の中身の話なんて1ミリにもならなくて、カフェテリアも私たちと、清掃の人たちが話しているくらいだった。
ずっと梅雨寒だった気候が、その日は久々に晴れ、気温は高く、夏の午後だった。
ずっと横並びで、私の解のない話を聞いてくれていた。
心地良かった。
そして、来月私の職場へ行くよと言って別れた。
私とちょっとだけ似ている。
ちょっとだけ。
たまには似てる人とお話しをするのは悪くない。