その夏の特別な日①
この年の夏は特別な年になるはずだった。
日本中が熱く燃え上がる年になるはずで、7月ともなればいよいよ待ちに待った…ということを多くの人々が期待していたであろう。
いざこの年を迎えてみると、熱気どころか世界中が混乱し、不安になり、経済は滞った。生活は一変し、当たり前だったことが当たり前じゃないことが当たり前となった。
人類の歴史の中で言えば、取るに足らない月日なのだろうが、今の私達には多くの苦痛をもたらしているし、それも現在進行形であったりする。
思えば僕は彼女と出会って、もう4ヶ月が経過していた。
あのタイミングが最後のタイミングだったのかもしれない。
あの春の風を感じる手前の晴れた日の朝、MCaféで全てを話した。
人に話しながら、なんて嵐の多い人生なんだと思った。
彼女は僕の目を見つめ、うんうんと聴き、時々涙した。
春に話はまた後の回想にするとして、第二波が来る前の今日がまた最後のタイミングだと考えた。
入念に打合せをし、交通手段は何にするとか、どうやって落ち合うとか、どうやって彼女の心を沈めようか…あれやこれや考えながら車を走らせた。
夜通しの運転でとてつもない豪雨に見舞われたものの、無事目的地へ到着した。
あの日以来の美容室で髪を切り、仮眠をしながら約束の時間まで待つ。
予定の時間より少し早いタイミングで彼女と落ち合う。
算段通り!
僕の心は踊っていた。
出会ったとき、「恥ずかしいからやめて」と言われた。
非日常の日常みたいな会話。
彼女の車の助手席に乗るのは初めてで、それは本当に旅行のような気持ちだった。
色んな荷物を詰め込んだバックを後部座席に乗せ、僕は助手席へ。
彼女のお気に入りの音楽を聴きながらのドライブでも良かったけれども、それよりも数か月ぶりの再開ともあり、話に花が咲いた。
出会えなくなってしまったのはただ単にコロナだけのせいじゃなくなったこと、職場の方針転換により、僕は関東から離れてしまったこと、彼女の生活も一変してしまったこと。思った以上に関東の生活は大変そうだった。
彼女は1件仕事をこなす間、僕はカフェでフルーツアイスティーを注文し、微睡ながらぼんやりと過ごした。
都市部から離れたカフェは、都市部と同じ系列店でも客層が異なっていた。あか抜けない学生たちがひっそりと勉強をしている。都市部での生活が長かった僕からすると新鮮だった。
日が暮れた頃、ようやく彼女と再会する。
一歩外に出るとじっとりとした空気が僕の身体を包み、パンストの自分を股間がじっとりし、髪の毛もベタっとしていた。
車を走らせ、本日の宿泊先へ向かう。
「おなかすいたー」と運転席で騒ぐ彼女を見ながら、僕はどうやって僕のものにしようかを目論んでいた。
でもその一方で、普通に手をつないだり、モールで買い物したりするのが新鮮だった。