その夏の特別な日④
会うスケジュールを決めてからというもの、私はその日を心待ちにしていた。世間はコロナ、コロナ、コロナ…もう毎日がウンザリする…。世の中はテレワークだなんだとか言っているけれども、私には無関係…というか、学校関係者なんていうのはただでさえブラックなのに、拍車をかけた。
かねてからICT教育推進なんてことを言われていたけれども、どう考えたって本校に…いや周りの関係者の話でもそれはまだ先だろうという印象であった。休日は部活で潰れるし、平日も多忙な業務に加え、相談やらクレーム、そして身内でのハラスメントなんかで精神を消耗しきってしまっている。
昨日も先輩の愚痴を延々と聞かされていた…他にもすることあるんだけれどなあと思いつつも、そこがしっかりしてもらわないと先には進まない。相談室のアクリル板越しに話を聞きながら、私は蒸れたパンストの太ももをサワサワしていた。
「そういえば…数学の武田先生、先生の事気になっているんじゃない。私前から気になっていたんだけれど、武田先生、湯島先生のことずっと気にかけている感じよ。どう…武田先生、湯島先生的にはアリな感じ?」
先輩は一通り話し終わったところで数学の武田先生の話題を持ち掛けてきた。武田先生は自分よりも3つ下の先生である。元々色が白くて女性的だったけれども、最近は肉体改造をしているようであった。私は彼が着任以来彼が困っているタイミングで声をかけてきた。それは周りが無関心というか、新人は先輩に訪ねてくるのが筋という文化であり、私はそれがいかに業務効率を下げる要因でしかないという考え(私は極力残業したくないのだ…!)であったので、彼には積極的にサポートをしてきたのであった。
武田先生自体は良い先生だし、これからも頑張ってもらいたいという気持ちだけだった。仮に好意的に思っていたとしても、私が先輩にその話をする訳がない。変に弱みを握られたりするのも癪に障るというものだ。それより、早く切り上げて帰りたい…。
「ああ、そうなんですか。私は彼が困っている事をその都度教えているだけなので…そのせいじゃないですかね?先生方お忙しいから武田先生もお声をかけ辛かったんじゃないでしょうか?」
もっと何か聞き出せるはずなのにという納得いかない表情で先輩は言う。
「そうかあ。まあ皆コロナでピリピリしているから余裕ないもんね。武田先生もまだ若いし、その辺の立ち回りに困っているんでしょうねえ…。湯島先生ばかりにしわ寄せいくのもおかしいから、私も声かけてみるわ。」
「あ、ありがとうございます。武田先生も本田先生から声かけて頂けると安心されると思います!私だとまだまだな部分がありますから…。」
「まあ、湯島先生もまだ4年目だもんね、荷が重いよねえ。フフフッ。私に任せて。今日も話を聞いてくれてありがとう。」
そう言って先輩こと、本田先生は席を立つ。時計を眺めると2時間ほど相談室で話をしていたらしい…この時間こそ本当に無駄なのである。しかしながら、どこかで発散しないと皆どこかで壊れてしまうのでは…教員にはそんな脆さがあった。
室内を消毒し、軽い絶望に苛まれる。
…はあー私だって発散したいよ。
自宅に戻れば家事と監視好きな両親が待っている。このところの騒ぎで仕事量が増えたおかげで家事は何となく免除され気味だが、行動に関しては今までより厳しくなった気がする。
『帰りは何時ですか?』母からのLINEが入る。
『一仕事してから帰るのでご飯は要りません。ご飯はコンビニで買って食べます』とメッセージを入れる。
これで少し自分の時間が持てる。
今日はもう仕事しないやと心に決め、帰り支度をしてから自分の車へ乗り込む。
辺りはもう真っ暗。私は少しSNSを開ける。
彼からのメッセージは来ていない…。きっと忙しいのであろう。
別の人からメッセージが入る。
『僕の汚チ〇チ〇も舐め回してください。私は大手企業の管理職なので、安心してください』
…安心できるわけがない…。
『僕は17歳の童貞です。サヤカさんの奴隷になりたいです。お願いします。』
…お願いされても無理…。
そんなメッセージと色んな人達の欲求がタイムラインに流れる。
ああ、世間はコロナに毒されている。
私は今日履いていたパンストのクロッチ部分をなぞる。
「今日も私頑張った…はぁ…」
膨れ上がったアソコを指で軽く押したり、擦ったりしてみる。
「ふぅ…」
じんわり熱くなっていくのが分かる…私は脳内で黒いゼンタイ姿の人間に弄ばれることを想像する。恥ずかしい恰好をさせられて、それを写真に撮られて、彼の密かなコレクションになることを思い描く。