距離
自分の人生の期待値なんて知れている。
恋なんて望んでいないし、美しい恋愛なんて自分には合致しない。
欲の吐き出しに、お互いそういう気持ちなんでしょう?…分かった上で会う。
感情のゲージはカラカラの砂漠で、性欲だけは溢れ返る。溢れそうだからとにかく処置を施す感じ。お互い、溢れる性欲を受け止めるだけのために。
お手軽に、文脈上お手軽に会えそうな人とならそれでいい。あの時もそう。
メッセージがきて、たまたま私とのタイミングがよくて、それで会うことに。
その人の背景なんてどうでもよくて、欲を出せる相手ならそれで十二分に満足。
それなりに身支度を整え、夜の西条まで車を走らせ、その人に会う。
写真の交換すらせず。
目的が明確だからすぐにホテルへ行く。
ホテルへ入る。
一気に距離が縮まる。
私の心の扉を、オートロックの部分までスイスイ侵入してくる。
心が持っていかれる。
フワッと持っていかれる。
私の意識は横へ置いたまま、彼の意のままに、私は反応する。
いたぶられ、嬲られ、それをする姿がとても魅力的だった。
カッコ良かった。
あの不敵な笑顔を見て、私は堕ちた。
大学生活で散々男性を見てきて、中身がないと辟易していたのに、絶望しかしていなかったのに、彼は強烈な魅力を放っていた。
当たり前だけども、彼は女をモノにしか見ていなかった。
強烈に惹かれた訳は
…彼は母性に飢えていた。
母から貰うはずの愛は、ある時途絶え、違う母親役割を担う人からは虐待を受けていた。
歪な母子関係。
その苦悩から構築された性癖が狂おしいほど魅力的だった。
彼は言う。
今頃になって言う。
歪な鍵の形を持っている自分にfitするのは私だけだって。
そんな台詞を他でも吐いているかも知れないけれど、そうやって表現できるのが私の心を刺激するんだ。
だって、皆心を奪おうとしないんだもん。